東京地方裁判所 平成12年(ワ)7632号 判決
原告 三浦久美子
原告 三浦常雄
右両名訴訟代理人弁護士 大嶋芳樹
被告 高橋昌行
主文
一 原告三浦久美子と被告との間の、平成八年二月七日付け金銭消費貸借契約に基づく同原告の被告に対する元金一一八万円の返還債務が存在しないことを確認する。
二 原告三浦常雄と被告との間の、平成八年二月七日付け連帯保証契約に基づく原告三浦久美子の被告に対する前項の債務についての連帯保証債務が存在しないことを確認する。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文と同旨
第二事案の概要
本件は、原告三浦久美子(以下「原告久美子」という。)が被告から借り受けたのは合計六五万円にすぎないうえ、これは既に弁済済みであるところ、被告に強制されて作成した金銭借用証書には貸金元金として一一八万円との記載があり、また、右証書の連帯保証人欄には原告三浦常雄(以下「原告常雄」という。)の住所及び氏名が記載されているところ、これは原告久美子の母である三浦とも子(以下「母とも子」という。)が署名押印したにすぎないうえ、貸金債務は消滅している以上、連帯保証債務も存在しないとして、各原告の被告に対する各債務不存在の確認を請求する事案である。
一 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがない。
1 原告久美子の被告からの借入
原告久美子と被告とは、共通の知人である熊倉カヨ子(以下「熊倉」という。)を通じて知り合い、原告久美子から被告に対し借入の申出がなされ、以後、複数回にわたり原告久美子は被告から借入をした。
2 借用証書の存在
右借入に関し、原告らと被告との間には、金額を一一八万円とする平成八年二月七日付け金銭借用証書(以下「本件借用証書」という。)がある。本件借用証書の借主欄には原告久美子の自署押印があり、連帯保証人欄には原告常雄名義の署名と同人の印鑑による印影がある。そして、同証書の欄外には、「一回 三月七日 二六〇〇〇〇、一回 三月七日 五四〇〇〇×七、一回 一一月七日 四〇〇〇〇×二一」という、原告久美子の自筆による記載と押印がなされている。
3 原告久美子の被告に対する弁済
原告久美子は被告に対し、合計六五万円を弁済した。
二 被告の主張
1 原告久美子に対する貸付の経緯
被告は、原告久美子から借入の申出を受けたが資金的余裕がなかったため、株式会社丸井、株式会社ジェーシービー等のカードで借り入れて四五万円を、そしてその一週間後には三五万円を貸し付け、その後も原告久美子に対し複数回にわたり貸付を行った。
これは被告が原告久美子から消費者金融からの借入が多額に及んだため返済に困窮していると告げられたため、金利の低いクレジット会社からの借入に切り替えて消費者金融の債務は完済した方がよいのではないかとアドバイスをしたうえで、好意で同原告に貸し付けたものである。
2 本件借用証書作成の経緯
右1による被告の原告久美子に対する貸付額が多額になり、これらを明確にするため、被告は原告久美子に対し、借用証書の差入れを求めたところ、平成八年二月七日、原告久美子は原告常雄を連帯保証人として金額を一一八万円とする本件借用証書を作成し、自ら持参して被告に差し入れた。
本件借用証書の作成に際しては、原告久美子と被告との間では、利息も含めた返済計画を取り決め、原告久美子において本件借用証書の欄外に、具体的期日、金額を記載して押印したものである。
三 原告の反論
1 被告から借り入れたのは熊倉と共同によるものであって、一回の借入額は多いときで一五万円程度であったし、合計額も六五万円である。そして、その使途は消費者金融に対する返済ではなく、生活費及び遊興費であることを被告に説明している。
2 本件借用証書の作成については、原告久美子作成部分については、被告に強く迫られ、その指示のままに記載したものにすぎない。また、原告常雄作成部分については、母とも子が記入して捺印したものである。
第三当裁判所の判断
一 認定事実
証拠調べの結果によれば、以下の事実が認められる。
1 原告久美子は、平成六年ないし七年ころ、生活費及び遊興費として、返済期日や利息の支払については特に定めることなく、被告から複数回にわたり熊倉と共同して金員を借り入れた(甲二の1)。
2 原告久美子からの返済が滞ってきたため、被告は原告久美子に対し、返済の催促をするとともに借用書を作成するよう求めたところ、原告久美子は、本件借用証書の借主欄に自署するとともに、母とも子に事情を説明してその連帯保証人欄に原告常雄の住所及び氏名を記入してもらい、その後原告常雄に連帯保証人となることについて了解を得た(甲二の1、原告久美子本人)。
3 本件借用証書を作成した後も、原告久美子は思うように被告に対する返済ができないでいたところ、被告からの請求額が一三〇万円となり、更にその後二六〇万円となり、原告久美子は被告に求められるまま、借入金額を二六〇万円とする平成八年四月一一日付け金銭借用証書に署名押印し、連帯保証人欄の原告常雄名義部分は母とも子に作成してもらった(甲二の1、甲四、原告久美子本人)。
4 平成八年六月ないし七月ころ、被告の求めに応じて熊倉が五二〇万円の金銭借用証書を作成することとなり、これを原告久美子が連帯保証したが、原告久美子は、熊倉との同居を解消することとなったため被告に保証人の解除を申し入れ、平成八年八月三〇日、被告の了承を得た(甲五、原告久美子本人)。
二 判断
1 そこで検討するに、そもそも債務不存在確認請求においては、債権者である被告において、債務者である原告に対する債権の発生原因事実を特定してこれを主張立証しなければならない。
この点、前記前提事実及び認定事実によれば、本件借用証書の原告久美子名義にかかる部分は原告久美子の意思に基づき作成されたものと認められる。しかしながら、本件については、以下のとおり、本件借用証書記載のとおりの事実を認定することを妨げるべき特段の事情が認められる。
2 すなわち、被告は、原告久美子に対する貸付につき、平成一二年六月一九日の本件口頭弁論期日において、原告久美子には平成七年一一月ころ四五万円、同年一二月ころ三〇万円、平成八年一月ころ二〇万円、同年二月ころ一〇数万円を貸し付けた旨主張し、本件借用証書の作成経緯につき、原告久美子への貸出資金はクレジットカードで借り入れたものであったために、その利息分を支払うことを合意した旨主張していた。そこで、当裁判所は、被告の右主張が金額的に不明瞭な部分があるため、被告に対し、手持資料があるか否かを問うたところ、カード利用明細等を所持している旨の被告からの返答があったので、それらを精査してより具体的に主張することを促すとともに右利用明細等を証拠として提出するよう勧告した。ところが、被告は、貸出資金の捻出に関する裏付けとなる文書を全く提出しないうえ、前記第二・二1のとおり、自ら口頭弁論期日で述べた貸付経緯と異なる主張を提出している。しかも、これを認めるに足りる証拠もまた全くない。
また、前記認定事実によれば、被告が原告久美子に対して請求する貸付金額は、原告久美子の延滞期間が長くなるにつれて、何ら合理的理由もなく、一三〇万円、二六〇万円、五二〇万円と、それぞれ倍額に増額されている様子が窺われる。
そしてまた、被告は、本件借用証書の欄外に記載されている「一回 三月七日 二六〇〇〇〇、一回 三月七日 五四〇〇〇×七、一回 一一月七日 四〇〇〇〇×二一」との書き込み部分は、原告久美子と返済計画を協議したものであるとしているが、右返済計画による返済総額は、同借用証書には利息支払合意について何らの記載もないにもかかわらず、本件借用証書の冒頭にある一一八万円を超える一四七万八〇〇〇円にも達するものである。
3 このようなところからすると、被告の原告久美子に対する貸付金額の主張自体きわめてあいまいであり、それらの真偽についても疑問を容れる余地がきわめて大きいというべきであって、本件借用証書が真実を反映するものとは到底考えられないというべきであるから、本件借用証書の実質的証拠力はきわめて脆弱であるといわざるを得ず、その記載内容を直ちに信用することはできない。
ほかに被告の抗弁事実についての主張立証はない。
4 他方、客観的資料(甲四、五)にも裏付けられている原告久美子の供述によれば、被告から複数回にわたり借り入れた金額は、その後に借入金額を倍額に増額されていった経緯に照らし、合計六五万円であったと推測されるというべきところ、原告久美子の被告に対する弁済額については合計六五万円を弁済したことについては争いがない(前提事実3)。
この点、証拠(甲三の1ないし20、原告久美子本人)によれば、平成八年五月一七日から平成一一年六月二日までの間、原告久美子の被告に対する弁済額は右争いのない限度を超えて合計九九万円に達している事実が認められるところ、これは延滞を理由に返済額を倍額に増額されてきたので返済を続けなければならないと思いこんでいたことによるものであると認められ(原告久美子本人)、原告久美子の弁済額がその主張する債務額を超過していることをもって直ちに原告久美子の借入額が六五万円を超過していたと推認するのは相当でない。
5 以上の事実を総合すると、原告久美子は既に被告からの借入金の返済を終了していると認めるのが相当であり、したがって、原告久美子の被告からの借入債務は既に消滅したものというべきである。
6 また、主たる債務者である原告久美子の弁済により債務が消滅している以上、連帯保証人欄に記載のある原告常雄の連帯保証債務もまたその附従性により消滅していると認められる。
第四結論
以上のとおりであって、原告らの本件請求にはいずれも理由があるのでこれらを認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤田広美)